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施設を「管理」から「経営」へ
学校の施設管理は、多くの場合「壊れたら直す」で回っています。担当者は日々の修繕依頼と点検対応に追われ、全体を見渡す時間がありません。
ファシリティマネジメント(FM)は、この状態を変えるための考え方です。施設を個別の修繕対象としてではなく、経営資源の一つとして扱います。
この記事では、①FMとは何か、②学校でFMが必要な理由、③何を管理するのか、④どう体制を作るか、⑤公立と私立での進め方の違い、の5点を整理します。
この記事の要点
- FMは、保有・使用する全施設とその利用環境を、経営戦略の視点から総合的に企画・管理・活用する経営活動
- 管理のレベルは「戦略・計画」「業務管理」「実務」の3つに分かれる
- 学校では、建物情報・劣化状況・費用・利用状況の4種類の情報を一元化することが出発点
- 12条点検や光熱水費の記録など、既にあるデータを集めるだけでも大きく前進する
- 公立では部局横断、私立では理事会レベルでの意思決定の仕組みが鍵になる
ファシリティマネジメントとは何か?
ファシリティマネジメントとは、企業・団体等が保有または使用する全施設資産およびそれらの利用環境を、経営戦略的視点から総合的かつ統括的に企画、管理、活用する経営活動です。これは公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)の定款による定義です。
ポイントは「経営活動」という言葉です。建物を良い状態に保つことが目的ではなく、組織の目的を達成するために施設をどう使うかを考えます。学校であれば、教育の質と経営の持続性のために、校舎をどう持ち、どう使い、どう手放すかを判断する活動になります。
3つの管理レベル
JFMAでは、FMを3つのレベルで整理しています。
| レベル | 内容 | 学校での例 |
|---|---|---|
| 戦略・計画 | 経営にとって全ファシリティの統括的で最適なあり方を求める | 学校配置、校舎の保有・集約・転用の方針 |
| 業務管理 | ファシリティの最適な状態への改善を図る | 改修計画、予算配分、優先順位づけ |
| 実務 | 日常の運営維持の合理化、計画化、定量化を目指す | 点検、清掃、修繕、光熱水費の管理 |
学校の施設管理は、多くの場合「実務」だけで回っています。FMを導入するとは、その上に「業務管理」と「戦略・計画」の層を作ることです。
業務の流れはPDCAサイクルに基づき、戦略・計画、プロジェクト管理、運営維持を実施し、評価したうえで改善方針を立案する体系とされています。
なぜ学校にFMが必要なのか?
3つの理由があります。
施設が一斉に更新時期を迎えている
文部科学省によれば、公立小中学校施設は第2次ベビーブームに合わせて建築されたものが多く、令和6年5月1日現在で約6割が築40年以上を経過し、そのうち7割以上が改修を要する状況です。
一斉に傷んだ施設を、限られた予算で順番に直していくには、全体を見渡した優先順位づけが欠かせません。個別の修繕対応の積み重ねでは追いつきません。
在籍者数が減っている
在籍者が減っても、施設の維持費は面積に比例するため下がりません。どの建物を持ち続け、どれを手放すかという判断は、実務レベルでは出てきません。戦略・計画レベルの仕事です。
情報がばらばらになっている
図面は施設課、点検記録は業者、修繕履歴は各学校、光熱水費は財務。学校施設の情報は、多くの場合ばらばらに保管されています。担当者が異動すると、経緯が分からなくなります。
FMでは何を管理するのか?
4種類の情報を建物ごとに一元化します。
| 情報 | 内容 | 主な出所 |
|---|---|---|
| 建物情報 | 建築年、構造、延床面積、階数、図面 | 台帳、竣工図 |
| 劣化状況 | 部位ごとの評価、構造躯体の調査結果 | 劣化状況調査、耐震診断、12条点検 |
| 費用 | 改修・修繕の履歴と金額、維持管理費、光熱水費 | 財務・契約記録 |
| 利用状況 | 在籍者数、使用教室数、稼働率 | 学校、教務 |
文部科学省の資料でも、劣化状況や劣化リスクに加え、改修や修繕の履歴と費用、教育研究ニーズへの適応状況等の施設情報を整理のうえ、施設カルテ等を作成してデータを一元的に管理することが、計画の実施体制を構築するうえで有効であるとされています。
建物ごとの台帳の作り方は建物カルテとは何か?にまとめています。
既にあるデータから始める
新しい調査をしなくても、集められる情報はかなりあります。
- 建築基準法第12条に基づく定期点検の報告書
- 消防設備点検の報告書
- 耐震診断の結果
- 過去の工事契約書と竣工図
- 電気・ガス・水道の請求書
文部科学省の資料では、施設の現況調査や老朽化調査等の費用が高額となる場合においても、建築基準法12条点検の結果を活用するなどの工夫が可能であるとされています。
まずは既存データを1つの表に集めることが、FMの最初の一歩になります。
費用はどう見える化するか?
建物ごと、費目ごとに年間の費用を並べます。
文部科学省の試算ソフトでは、施設関連の費用を、改築、長寿命化改修、予防改修、部位改修、その他施設整備費、経常修繕費、維持管理費、光熱水費・委託費に分けて扱っています。この区分をそのまま使うと、他の自治体や他校と比較しやすくなります。
費用を延床面積で割り、1平方メートルあたりの単価にすると、建物間の比較ができます。同じ規模なのに光熱水費が突出して高い建物は、設備の効率が落ちているか、使い方に問題があるかのどちらかです。
長期の費用の比較方法は施設投資のROIはどう考えるか?で扱っています。
FMの体制はどう作るか?
責任者を決め、情報の流れを一本にします。
責任者を置く
施設に関する判断を集約する担当者を決めます。技術職員である必要はありませんが、全施設の情報にアクセスでき、予算要求に関与できる立場であることが必要です。
情報の入口を一本にする
修繕依頼、点検結果、工事の完了報告を、すべて同じ台帳に記録する流れを作ります。記録の場所が複数あると、すぐに情報が散らばります。
年1回は全体を見直す
実務レベルの記録を、年に1回は業務管理・戦略レベルで見直します。劣化状況の変化、費用の推移、在籍者数の見通しを並べて、翌年度以降の計画を更新します。
中長期計画への落とし込みは施設整備の中長期修繕計画の作り方を参照してください。
公立と私立で進め方は違うか?
意思決定の構造が違います。
公立学校
学校施設は教育委員会の所管ですが、財源は首長部局の財政課が握り、工事は営繕課が担当することが多くあります。FMを機能させるには、部局をまたいだ体制が必要です。
文部科学省は、教育委員会と首長部局との間で横断的な検討体制を構築し、学校施設の適正規模・適正配置や複合化・共用化、管理運営・維持管理の見直し等を行う際の業務の進め方について解説書を公表しています。
また、学校施設は公共施設全体の再編の中に位置づけられます。公共施設等総合管理計画との関係は公共施設の再編と学校で扱っています。
個別施設計画との関係は学校施設の長寿命化計画(個別施設計画)とは?を参照してください。
私立学校
私立学校では、施設に関する最終判断は理事会が行います。部局の調整は公立より少ない一方で、施設担当が事務局の一部にとどまり、経営判断に情報が届かないことがあります。
FMを導入するなら、施設の状況を定期的に理事会に報告する仕組みを作ることが要になります。私立学校の施設戦略は私立学校の経営改善で施設はどう位置づけるか?にまとめています。
FMの導入でつまずきやすいのはどこか?
3つあります。
台帳を作って終わる
最初に全施設の情報を集めると、それだけで大きな作業になります。台帳が完成した時点で満足してしまい、更新が止まるケースが多くあります。修繕や点検のたびに記録を足す流れを、台帳づくりと同時に決めておく必要があります。
実務の改善だけで止まる
点検の効率化や清掃委託の見直しは成果が見えやすく、そこで終わりがちです。しかし大きな費用を左右するのは、どの建物を持ち続けるかという戦略レベルの判断です。実務の改善で浮いた時間を、戦略の検討に回す意識が要ります。
判断の場に情報が届かない
担当者がどれだけ情報を整理しても、予算や方針を決める場に届かなければ意味がありません。報告の頻度と形式を先に決めておきます。意思決定者向けの資料の作り方は理事会で施設投資を通すための資料はどう作るか?を参照してください。
よくある質問
Q. FMを始めるのに専用のシステムは必要ですか。
A. 最初は表計算ソフトで十分です。文部科学省も公立学校向けに、建物情報の入力から劣化状況の集計、長期のコスト試算までを行えるエクセルソフトを公表しています。
Q. 小規模な学校法人でもFMは必要ですか。
A. 規模が小さいほど、1棟の判断が経営に与える影響は大きくなります。台帳を1つ作り、年1回見直すだけでも効果があります。
Q. FMの担当者に資格は必要ですか。
A. 必須ではありません。認定ファシリティマネジャーという資格がありますが、まずは情報を集めて判断の場に届ける役割を果たせることが重要です。
Q. 外部に委託できますか。
A. 劣化状況調査、長期計画の作成、コスト試算などは外部に委託できます。ただし最終的な判断は組織の中で行う必要があるため、窓口となる担当者は内部に置きます。
Q. FMの効果はどう測りますか。
A. 延床面積あたりの維持管理費と光熱水費、緊急修繕の件数、計画どおりに実施できた工事の割合などで追えます。
まとめ
ファシリティマネジメントは、保有・使用する全施設とその利用環境を、経営戦略の視点から総合的に企画・管理・活用する経営活動です。学校の施設管理が「実務」レベルだけで回っている状態から、「業務管理」と「戦略・計画」のレベルを加えることが導入の意味になります。
出発点は、建物情報・劣化状況・費用・利用状況の4種類の情報を建物ごとに一元化することです。12条点検の報告書や光熱水費の請求書など、既にあるデータを集めるだけでも大きく前進します。
体制としては、責任者を置き、情報の入口を一本にし、年に1回は全体を見直す。公立では部局横断の検討体制、私立では理事会への定期報告の仕組みが、FMを機能させる鍵になります。
参考・出典
- 公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会「FMとはどのようなものか」 https://jfma.or.jp/whatsFM/
- 文部科学省「公立学校施設の老朽化対策の推進」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/1334433.htm
- 文部科学省「インフラ長寿命化計画(個別施設計画)における留意点」(令和2年3月) https://www.mext.go.jp/content/20200602-mxt_keikaku-000007528.pdf
- 文部科学省「個別施設計画の策定について」(令和2年12月) https://www.mext.go.jp/content/20201215-mxt_sisetuki-000011365-001.pdf
- 文部科学省「学校施設の長寿命化計画の見直しに向けたコスト試算等に係る解説書」(令和5年3月) https://www.mext.go.jp/content/20230901-mxt_sisetujo-100003127_2.pdf
記載の制度・定義は公表時点のものです。最新の内容は各機関の公表資料でご確認ください。
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