この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

学校に防災備蓄スペースは新設できるのか?

床荷重と搬入の条件

できます。ただし1階に置くことが前提になります。

学校は避難所として指定されている建物が多く、備蓄を置く場所の確保が求められます。余裕教室、使っていない特別教室、体育館の器具庫。候補はいくつかあります。

ただし備蓄品は重く、入替えのために定期的に搬出入します。床の積載荷重と搬入の経路という2つの条件で、置ける場所が絞られます。

そして備蓄は置いただけでは機能しません。賞味期限の管理、鍵の管理、開設時に取り出せる動線。これらが決まっていないと、災害時に使えません。

この記事では、①床荷重の確認、②置ける場所、③搬入搬出、④保管の環境、⑤運用の決め方、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 床の構造計算に用いる積載荷重は、建築基準法施行令第85条が室の種類ごとに定めている
  • 教室は教室としての値で設計されており、備蓄品を積み上げる前提ではない
  • 水と燃料は体積あたりの重量が大きく、1箇所に集中した荷重になる
  • 入替えのために定期的に搬出入するため、トラックが寄り付ける1階に置く構成が基本
  • 用途を変更して200平方メートルを超える特殊建築物とする場合は確認申請が関わるため、計画の内容を特定行政庁に確認する

床荷重はどう確認するのか?

構造計算書で室種別の値を見ます。

床の構造計算に用いる積載荷重は、建築基準法施行令第85条が室の種類ごとに定めています。教室は教室としての値で設計されており、物を積み上げる前提ではありません。

確認項目 内容
設計時の積載荷重 構造計算書で室種別の値を確認
備蓄品の重量 品目と数量から算出
積み上げる高さ 高く積むほど面積あたりの重量が増える
梁と柱の位置 重量を集められる位置
構造計算書の有無 ない場合は構造の調査が必要

水と燃料が重い

飲料水、発電機の燃料、簡易トイレの処理剤。これらは体積あたりの重量が大きくなります。パレットに積んで1箇所にまとめると、集中した荷重になります。

床の条件から、積み上げる高さと配置を決めてください。

構造計算書がない場合

旧い校舎では構造計算書が残っていないことがあります。この場合、既存図面と現地の調査から判断することになります。

調査の種類は学校改修の現地調査は何をするのか?で扱っています。

分散して置く

1室に集中させず、複数の室に分散して置けば、1箇所の荷重が小さくなります。

ただし管理が分散し、在庫の把握が難しくなります。品目ごとに分ける、重量物だけ1階に置くなどの整理が必要です。

構造設計者に確認する

積載荷重の判断は、構造設計者が行います。「この教室に水を何トン置けるか」という問いには、構造の検討が必要です。

計画の段階で確認してください。

置ける場所はどこか?

1階が基本です。

候補 評価
1階の余裕教室 荷重と搬入の両面で有利
1階の特別教室 同じ。ただし用途の整理が必要
体育館の器具庫 搬入しやすいが器具と競合する
屋外の防災倉庫 新設になるが制約が少ない
2階以上の教室 搬入が階段になる
地下 浸水のリスクを確認

屋外の防災倉庫という選択

校舎に置く場所がない場合、屋外に防災倉庫を新設する方法があります。

検討項目 内容
建築物として扱われるか 規模と構造による
確認申請 必要になる場合がある
位置 搬入しやすく、避難所から近い位置
基礎 荷重と転倒への対応
浸水のリスク ハザードマップとの照合
施錠と管理 誰が鍵を持つか

屋外の倉庫は、建築物として扱われるかどうかで手続きが変わります。規模と構造を特定行政庁に確認してください。

体育館の器具庫

体育館の器具庫は、床が1階レベルで搬入しやすい利点があります。ただし体育の器具と競合します。

使っていない器具を処分して空きをつくる方法があります。あわせて器具の転倒防止も行ってください。

浸水のリスクを確認する

浸水想定区域にある学校では、1階や地下に備蓄を置くと浸水で使えなくなります。

ハザードマップを確認し、想定される浸水深より上に置く判断が必要になることがあります。この場合、搬入の負担と浸水のリスクを比べることになります。

余裕教室の活用

余裕教室の活用には他の選択もあります。整理は余裕教室はどう活用するのか?で扱っています。

備蓄は収益を生まない用途ですが、避難所としての機能に直結します。

搬入搬出はどう考えるのか?

入替えが前提です。

項目 内容
トラックの寄付け 校門から建物までの経路
搬入の開口 幅と高さ、段差
台車の走行 床の仕上げ、段差
階段 2階以上に置く場合の制約
入替えの頻度 賞味期限による
作業の人数 誰が行うか

入替えの作業量を見込む

備蓄品には賞味期限があります。定期的に搬出して新しいものを入れる作業が発生します。

2階以上に置くと、この作業が階段での運搬になります。数年ごとの作業ですが、量が多ければ負担が大きくなります。

トラックが寄り付けるか

校門の幅、進入路の幅、建物までの経路。トラックが寄り付けるかを確認してください。

グラウンドを通る経路では、雨天時にぬかるんで入れないことがあります。

段差を解消する

搬入の経路に段差があると、台車が通れません。昇降口の段差、廊下と教室の段差。

スロープを設けるか、段差のない経路を選んでください。屋外の整備は校庭はどう整備するのか?で扱っています。

災害時に取り出せるか

平時の搬入より重要なのが、災害時に取り出せるかです。停電でシャッターが開かない、鍵を持つ人が来られない、通路が塞がれている。

これらを想定して、取り出しの手順を決めてください。

保管の環境はどうするのか?

湿気と温度です。

項目 内容
湿気 食料と紙製品の保管に影響
温度 夏季の室温が保存に影響
直射日光 劣化を早める
換気 閉め切ると湿気がこもる
害虫・小動物 食料があると寄ってくる
床からの湿気 1階と地下で注意

閉め切った教室は湿気がこもる

使っていない教室を備蓄庫にすると、閉め切った状態になります。湿気がこもり、食料と紙製品が傷みます。

換気の計画が必要です。窓を開けられない場合、機械換気を設けるか、定期的に開放する運用にしてください。

夏季の室温

断熱されていない校舎の最上階は、夏季に室温が上がります。食料や医薬品の保管には向きません。

1階、または日射の影響が小さい北側の室を選んでください。

棚に置き、床に直置きしない

床からの湿気を避けるため、パレットや棚に載せてください。段ボールを床に直置きすると、下から湿気を吸います。

ただし棚の高さを上げると、積載荷重が集中します。棚の配置を構造の条件と合わせてください。

害虫と小動物

食料を置くと、害虫と小動物が寄ってきます。密閉できる容器に入れ、開口部の隙間を塞いでください。

定期的な点検の項目に含めてください。

運用はどう決めるのか?

5つを文書にします。

項目 決めること
鍵の管理 誰が持つか、災害時に誰が開けるか
在庫の管理 品目、数量、賞味期限の一覧
入替えの時期 いつ、誰が行うか
取り出しの手順 災害時に誰がどう取り出すか
点検の頻度 年に何回、誰が確認するか

鍵は複数の場所に置く

鍵を1人が持っていると、その人が来られない場合に開きません。学校、自治会、自治体の複数の場所に置く形が取られます。

キーボックスを設けて、暗証番号を関係者に共有する方法もあります。

在庫の一覧を作る

何がどれだけあるか、賞味期限はいつか。この一覧がないと、期限切れの物資が積まれた状態になります。

一覧は学校と自治体の両方で持ってください。

開設の訓練で確認する

避難所の開設訓練のときに、備蓄庫を開けて取り出してみてください。実際にやってみないと、鍵が合わない、通路が塞がれているといった問題が分かりません。

学校の職員の負担を考える

備蓄の管理を学校の職員に任せると、負担が増えます。本来の業務ではありません。

自治体の防災所管部署が管理する体制にするか、自治会と分担する形を決めてください。

用途変更の手続き

教室を備蓄庫として使う場合、用途の変更に当たるかの判断があります。用途を変更して200平方メートルを超える特殊建築物とする場合は確認申請が関わります。

確認申請が必要になる場合の線引きは学校の改修に建築確認は必要なのか?で扱っています。計画の内容を特定行政庁に確認してください。

避難所としての機能と合わせる

備蓄だけでなく、避難所として機能するための整備があります。備蓄スペースの検討と同時に、これらも確認してください。

項目 確認すること
トイレ 断水時の対応、個数
給水 受水槽の水を取り出せるか
電源 停電時の照明と通信
暖房・冷房 停電時に使えるか
間仕切り 世帯ごとの区画の方法
要配慮者のスペース 別室の確保
ペットの扱い 受入れの方針と場所

備蓄品を揃えても、トイレが使えなければ避難所として成立しません。断水時のトイレの対応は、備蓄の品目に直結します。

防災の所管部署と、施設の所管部署で情報を共有してください。

よくある質問

Q. 備蓄だけ揃えれば避難所として機能しますか。

A. しません。断水時のトイレ、受水槽の水の取り出し、停電時の照明と通信、世帯ごとの間仕切り。これらが揃っていないと滞在できません。

Q. 学校に防災備蓄スペースを新設できますか。

A. できます。ただし床の積載荷重と搬入の経路という2つの条件で、置ける場所が絞られます。1階に置く構成が基本です。

Q. 床の荷重はどう確認しますか。

A. 構造計算書で室種別の積載荷重を確認します。建築基準法施行令第85条が室の種類ごとに定めており、教室は物を積み上げる前提ではありません。

Q. 2階以上に置けますか。

A. 置けますが、入替えのたびに階段での運搬になります。備蓄品には賞味期限があり、定期的な搬出入が発生します。

Q. 屋外に倉庫を建てる方法はありますか。

A. あります。ただし建築物として扱われるかで手続きが変わります。規模と構造を特定行政庁に確認してください。

Q. 保管の環境で注意する点は何ですか。

A. 湿気と温度です。閉め切った教室は湿気がこもり、断熱されていない最上階は夏季に室温が上がります。1階または北側の室を選び、換気の計画を立ててください。

Q. 鍵は誰が持ちますか。

A. 1人が持つと、その人が来られない場合に開きません。学校、自治会、自治体の複数の場所に置くか、キーボックスを設けて暗証番号を関係者に共有する形が取られます。

まとめ

学校に防災備蓄スペースを新設することはできます。ただし床の積載荷重と搬入の経路という2つの条件で、置ける場所が絞られます。

床については、建築基準法施行令第85条が室の種類ごとに積載荷重を定めています。教室は教室としての値で設計されており、物を積み上げる前提ではありません。飲料水と燃料は体積あたりの重量が大きく、1箇所にまとめると集中した荷重になります。積み上げる高さと配置を構造の条件から決めてください。

置く場所は1階が基本です。入替えのために定期的に搬出入するため、トラックが寄り付ける位置で、搬入の経路に段差がないことが条件になります。校舎に場所がなければ、屋外に防災倉庫を新設する方法もあります。

保管の環境では湿気と温度に注意してください。閉め切った教室は湿気がこもり、断熱されていない最上階は夏季に室温が上がります。棚に載せて床からの湿気を避け、換気の計画を立ててください。

浸水想定区域にある学校では、1階に置くと浸水で使えなくなります。ハザードマップを確認し、搬入の負担と浸水のリスクを比べてください。

そして運用です。鍵の管理、在庫の一覧、入替えの時期、取り出しの手順、点検の頻度。この5つを文書にしてください。避難所の開設訓練のときに実際に開けて取り出してみれば、鍵が合わない、通路が塞がれているといった問題が分かります。

参考・出典

記載の法令および制度は公表時点のものです。積載荷重の適用、用途変更の判定および屋外の倉庫の取扱いは建物の状況と特定行政庁の運用により異なります。個別の適用は特定行政庁、防災所管部署および構造設計者にご確認ください。

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