この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

廃校を食品加工施設にできるのか?

HACCP・排水・区画の実務

廃校の食品加工施設への転用は、事例があり、相性も悪くありません。

給食室が残っていれば排水と電源の素地があります。教室は区画しやすく、廊下を資材と製品の動線に使えます。グラウンドに搬入用の車が入ります。地域の農産物を加工して出荷する拠点という構想は、地元の説明もしやすい。

ただし食品を製造する施設は、衛生管理と排水の要求が建物の設計を支配します。学校の仕上げと設備のままでは、営業許可の基準を満たしません。

そして排水です。学校の排水は、児童生徒の生活排水を前提に設計されています。加工場の排水は量も負荷も違います。

この記事では、①営業許可、②HACCPへの対応、③区画と仕上げ、④排水、⑤設備と動線、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 食品を製造するには食品衛生法に基づく営業許可が必要で、施設の基準は都道府県等の条例で定められている
  • 令和3年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務づけられている
  • 学校の仕上げと設備のままでは営業許可の基準を満たさないため、実質的な新設になる
  • 排水は水質汚濁防止法および下水道法の確認が必要で、1日当たりの平均的な排出水の量が50立方メートル以上の工場または事業場には排水基準の項目が適用される
  • 浄化槽の校舎では、加工場の排水が浄化槽の能力を超えることがある

営業許可は何が必要なのか?

業種ごとの許可と、施設の基準への適合です。

食品衛生法に基づき、食品を製造または加工する営業には許可が必要です。許可の業種は製造するものによって分かれ、施設の基準は都道府県等の条例で定められています。

確認項目 内容
営業許可の業種 製造するものによって分かれる
施設の基準 都道府県等の条例で定められている
食品衛生責任者 施設ごとに設置が必要
事前相談 設計の前に保健所に相談する
図面の提出 平面図、設備の配置、給排水の経路
完成後の検査 基準への適合を確認する

重要なのは、設計の前に保健所へ相談する点です。基準は条例で定められており、運用にも幅があります。図面を描き上げてから相談すると、やり直しになります。

製造するものを先に決める

同じ「食品加工施設」という言葉でも、何を作るかで要求が変わります。漬物、味噌、ジャム、菓子、惣菜、精肉、乳製品。それぞれ許可の業種が違い、必要な設備も違います。

品目が決まらないうちは、設計に入れません。構想の段階で、何を、どのくらい作るのかを固めてください。

複数の品目を作るなら区画が増える

1つの施設で複数の品目を製造すると、業種ごとの区画が必要になることがあります。教室1室で全部という計画は、品目が増えると成立しなくなります。

HACCPにはどう対応するのか?

計画の作成と記録の運用です。

令和3年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者がHACCPに沿った衛生管理に取り組むことが義務づけられています。営業者は衛生管理計画を作成し、従業員に周知し、手順書を作成し、記録して保存し、定期的に検証することが求められます。

取組み 内容
衛生管理計画の作成 一般的な衛生管理と重要管理点
従業員への周知 計画の内容を共有する
手順書の作成 作業の手順を文書化する
記録と保存 実施した内容を記録する
定期的な検証 計画が機能しているか確認する

対象外となる営業もあります。農業及び水産業における食品採取業、輸入業、貯蔵・運搬のみの営業(冷凍・冷蔵倉庫業を除く)、常温で長期保存可能な包装食品の販売業、器具容器包装の輸入・販売業です。

また集団給食施設で1回の提供食数が20食程度未満の場合は対応が不要とされています。

建物の設計に関わる部分

HACCPは運用の制度ですが、建物にも影響します。汚染区域と清浄区域の区分、一方向の動線、手洗いの位置、清掃しやすい仕上げ。これらは設計で決まる要素です。

運用でカバーできない部分を建物で解く、という順序になります。

業種別手引書を確認する

具体的な取組みの内容については、業種別の手引書が示されています。製造する品目に対応する手引書を確認してください。

区画と仕上げはどうするのか?

学校の仕上げはそのまま使えません。

部位 学校の状態 加工場で求められるもの
床 木、長尺シート、モルタル 耐水で清掃しやすい仕上げ、排水勾配
壁 塗装、クロス 耐水で清掃しやすい仕上げ
天井 吸音板、塗装 結露とほこりが落ちない仕上げ
建具 木製、ガラス入り 洗浄に耐える材質
窓 開放できる 防虫網、または開けない構成
手洗い 廊下の流し 作業区域内に専用のもの

床は特に問題になります。加工場の床は水を流して洗う前提で、勾配をつけて排水口へ導きます。教室の床は平らで、排水口がありません。

このため床の全面やり直しが必要になり、これが工事費の柱になります。

区域を分ける

原材料の受入れ、下処理、加熱、冷却、包装、保管、出荷。工程ごとに区域を分け、交差しない動線を組みます。

校舎は教室が廊下沿いに並ぶ構成で、この区分には向いています。ただし廊下を通る動線が交差しないよう、入口と出口を分ける計画が必要です。

天井裏の処理

学校の天井は吸音板で、天井裏に配管やダクトが通っています。この構成は、ほこりが落ちる、清掃できない、害虫の経路になるという問題があります。

天井を張り替えるか、天井を撤去して配管を露出させて清掃できる構成にするか。どちらも費用がかかります。

虫の侵入経路

学校は自然換気を前提に、窓を開けて使ってきました。加工場では開口部を閉じ、機械換気にする構成が基本です。

窓を閉じれば採光と換気の検討をやり直すことになります。既存不適格の扱いは廃校の既存不適格はどこまで遡るのか?で扱っています。

排水はどう扱うのか?

量と負荷の両方を確認します。

食品の製造施設の一部は水質汚濁防止法の特定施設に該当し、設置には届出が必要です。該当するかは政令で定める施設の区分で判断されます。

排水基準については、1日当たりの平均的な排出水の量が50立方メートル以上である工場または事業場に適用される項目があります。pH、BOD、COD、SS、窒素、燐などが対象です。

確認項目 内容
排水の量 1日当たりの平均
排水の負荷 BOD、SS、油分
放流先 公共下水道か、河川等か
下水道の場合 下水道法の水質基準、除害施設の必要性
河川等の場合 水質汚濁防止法の排水基準
浄化槽の場合 人槽と能力の確認
グリストラップ 油分を含む排水の処理

学校の排水設備は、児童生徒の生活排水を前提に設計されています。加工場の排水は、量が増え、有機物と油分の負荷が高くなります。

浄化槽の校舎は要注意

郊外の学校は公共下水道に接続しておらず、浄化槽で処理していることがあります。浄化槽の人槽は在校していた児童生徒数で決まっており、加工場の排水を前提にしていません。

浄化槽の能力を超える場合、浄化槽の更新または排水の前処理が必要になります。これは金額の大きい項目です。

下水道に接続している場合

公共下水道に放流する場合、下水道法に基づく水質の基準があります。基準を超える排水を出す場合は、除害施設を設けて処理してから放流します。

除害施設の設置は、面積と費用の両方が必要です。放流先の条件は計画の初期に確認してください。

設備の更新の考え方は廃校の設備更新はどこから手をつけるのか?で扱っています。

設備と動線はどう組むのか?

電源容量と搬入経路が制約になります。

項目 内容
受電容量 加熱と冷却の機器で大きく増える
給水の容量 洗浄に使う水量
給湯 温水の使用量と熱源
冷蔵・冷凍 保管と急速冷却
換気 加熱時の排気と給気のバランス
搬入搬出 トラックの寄付け、荷捌きの場所

受電容量は、計画の初期に確認すべき項目です。学校の受電設備は、照明と教室の空調を前提にしています。加熱機器と冷凍設備を入れると容量が足りなくなります。

搬入経路を確認する

原材料の搬入と製品の出荷で、トラックが寄り付く場所が必要です。学校の玄関は、トラックの荷捌きを想定していません。

1階に加工場を置き、外部から直接搬入できる開口を設ける構成が基本になります。既存の窓を開口に変えると、構造の確認が必要です。

1階に集約する

重量のある機器、水を使う工程、搬入搬出。これらを考えると1階に集約する構成になります。2階以上に加工場を置くと、床の荷重と防水、搬入の経路が課題になります。

収支の立て方は廃校活用の収支計画はどう立てるのか?で扱っています。設備投資が大きいため、稼働率の見込みが収支を決めます。

消防法上の扱いを確認する

工場や作業場は消防法施行令別表第一の該当する項で扱われます。学校の(7)項から変わるため、消防用設備等の要件を消防本部に確認してください。

消防設備の要件は廃校の転用で消防設備はどこまで必要か?で扱っています。

よくある質問

Q. 何から始めますか。

A. 製造する品目を決めることです。品目によって許可の業種と必要な設備が変わります。次に保健所への事前相談です。

Q. 給食室はそのまま使えますか。

A. 排水と電源の素地がある点では有利ですが、営業許可の基準は給食とは別です。設備の老朽化も確認してください。

Q. 教室の床はそのまま使えますか。

A. 使えません。加工場の床は水を流して洗う前提で、勾配をつけて排水口へ導きます。床の全面やり直しが工事費の柱になります。

Q. HACCPへの対応は必要ですか。

A. 令和3年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者が対象です。衛生管理計画の作成、記録の保存、定期的な検証が求められます。

Q. 排水で注意する点は何ですか。

A. 浄化槽の校舎です。人槽は在校していた児童生徒数で決まっており、加工場の排水を前提にしていません。能力を超えれば更新または前処理が必要です。

Q. 2階以上に加工場を置けますか。

A. 床の荷重、防水、搬入の経路が課題になります。重量機器と水を使う工程は1階に集約する構成が基本です。

まとめ

廃校の食品加工施設への転用は、給食室の素地、区画しやすい教室、搬入できるグラウンドという点で相性が悪くありません。ただし衛生管理と排水の要求が建物の設計を支配します。

まず製造する品目を決めてください。品目によって営業許可の業種と必要な設備が変わります。そして設計の前に保健所へ相談することです。基準は都道府県等の条例で定められ、運用にも幅があります。

令和3年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務づけられています。運用の制度ですが、汚染区域と清浄区域の区分、一方向の動線、手洗いの位置、清掃しやすい仕上げは設計で決まります。

工事費の柱は床です。加工場の床は水を流して洗う前提で、勾配をつけて排水口へ導きます。教室の床は平らで排水口がなく、全面のやり直しになります。天井の吸音板も、ほこりと害虫の問題で張り替えか撤去になります。

排水は量と負荷の両方を確認してください。1日当たりの平均的な排出水の量が50立方メートル以上の工場または事業場には排水基準の項目が適用されます。郊外の校舎では浄化槽の能力が論点になり、超える場合は更新または前処理が必要です。

そして受電容量と搬入経路です。加熱機器と冷凍設備を入れると学校の受電設備では足りません。トラックが寄り付く場所と、外部から直接搬入できる開口が必要になります。

参考・出典

記載の法令および制度は公表時点のものです。営業許可の施設基準は都道府県等の条例により異なり、特定施設の該当および排水の基準は施設の内容と放流先により異なります。個別の適用は保健所、所管の環境部署、下水道管理者および設計者にご確認ください。

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