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少子化時代の棚卸しと5つの選択肢
令和7年度、私立高校の71.2%、私立大学の53.2%が入学定員を満たしていません。在籍者が減れば、使われない教室、空いた棟、入寮者の少ない寮、使われなくなったキャンパスが生まれます。
こうした遊休資産は、放置すれば維持費と劣化だけが積み上がります。一方で、活用すれば収入を生み、手放せば負担を減らせます。どちらに進むにしても、まず何を持っていて、それぞれにどんな選択肢があるかを整理する必要があります。
この記事では、①遊休資産とは何か、②棚卸しの方法、③5つの選択肢、④学校法人ならではの注意点、⑤判断の進め方、の5点を整理し、それぞれの詳しい解説記事への入口とします。
この記事の要点
- 遊休資産は、教育活動に使われていない、または使用率が著しく低い学校法人の土地・建物
- まず全資産を棚卸しし、使用率・劣化状況・維持費・立地を一覧にする
- 選択肢は「内部転用」「時間貸し」「長期賃貸」「売却」「除却」の5つ
- 学校法人の場合、収益事業の課税、固定資産税の非課税、補助金の財産処分、私立学校法上の手続きの4点に注意が必要
- 将来の再利用の可能性と、手元に残る金額の両方で判断する
学校法人の遊休資産とは何か?
学校法人の遊休資産とは、学校法人が保有する土地・建物のうち、教育活動に使われていない、または使用率が著しく低いものです。
代表的なのは次のような資産です。
| 種類 | 例 | 生まれる原因 |
|---|---|---|
| 空き教室・空き棟 | 学級数の減少で使わなくなった教室や棟 | 在籍者の減少 |
| 寮・寄宿舎 | 入寮者が定員を大きく下回る寮 | 在籍者の減少、設備の古さ |
| 駐車場・グラウンド | 夜間・休日に使われていない施設 | 使用時間の偏り |
| 旧キャンパス | 移転・集約で使わなくなった校地 | キャンパスの再編 |
| 未利用地 | 将来の拡張用に取得したままの土地 | 計画の変更 |
| 職員宿舎 | 入居者の少ない宿舎 | 働き方や住まい方の変化 |
使われていない時間帯があるだけの施設と、まったく使われていない施設では、取れる選択肢が違います。前者は時間貸し、後者は長期賃貸や売却の対象になります。
遊休資産はどう棚卸しするか?
全資産を同じ形式で一覧にします。
一覧にする項目
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 基本情報 | 所在地、面積、建築年、構造、用途地域 |
| 使用状況 | 使用率、使用している時間帯、今後の使用予定 |
| 状態 | 劣化状況、耐震性能、アスベストの有無 |
| 費用 | 年間の維持管理費、光熱水費、今後の修繕・更新費 |
| 制約 | 基本財産か、補助金を受けたか、借地か |
使用率を数字で出す
教室であれば、1週間の授業時間のうち実際に使われている時間の割合を出します。棟単位であれば、延床面積のうち日常的に使われている面積の割合を出します。感覚ではなく数字で見ることで、活用や縮小の議論が進めやすくなります。棚卸しは一度で終わらせず、毎年の在籍者数の確定後に更新します。
私立学校の経営の中での施設の位置づけは私立学校の経営改善で施設はどう位置づけるか?にまとめています。
どんな選択肢があるか?
5つの選択肢があります。
| 選択肢 | 内容 | 向いている資産 | 詳しい記事 |
|---|---|---|---|
| 内部転用 | 別の教育用途に使う | 空き教室、空き棟 | 本記事 |
| 時間貸し | 使っていない時間帯に外部に貸す | 駐車場、グラウンド、体育館 | 駐車場・グラウンドの収益化 |
| 長期賃貸 | 棟や校地を一定期間貸す | 空き棟、旧キャンパス | 空き校舎の賃貸、定期借家・定期借地 |
| 売却 | 資産を手放して資金化する | 旧キャンパス、未利用地 | 不動産の評価とデューデリジェンス |
| 除却 | 建物を解体して負担をなくす | 老朽化した空き棟 | ダウンサイジング |
内部転用
空き教室を、少人数指導の教室、自習室、ラーニングコモンズ、部室、防災備蓄倉庫などに使います。新しい教育プログラムの拠点にする方法もあります。税や手続きの論点がほとんど生じず、最も取り組みやすい選択肢です。
転用にあたって間仕切りの変更や設備の追加を行う場合は、改修の範囲と費用を見積もります。教室を別の教育用途に変える程度であれば、建築基準法上の用途変更には当たらないのが通常です。
ただし、面積は減らないため、維持費の削減にはなりません。在籍者の減少が続く見込みなら、他の選択肢と組み合わせて考えます。
時間貸し
夜間・休日の駐車場やグラウンド、体育館を外部に貸します。学校の駐車場・グラウンドを貸すと税金はどうなるか?で、収益事業の判定と注意点を扱っています。
施設に企業名の愛称をつけて対価を得る方法もあります。学校施設のネーミングライツはどう導入するか?を参照してください。
寮の空室や長期休暇中の活用は学校の寮・寄宿舎はどう収益化するか?にまとめています。
長期賃貸
空いた棟や旧キャンパスを、企業、他の教育機関、地方公共団体などに貸します。税の扱いは空き校舎を貸すと税金はどうなる?、将来の再利用に備えた契約の選び方は定期借家・定期借地・リースバックで校舎をどう活用するか?で扱っています。
売却
将来使う見込みのない旧キャンパスや未利用地を売却します。価格の考え方と事前の調査は学校の不動産はどう評価し、何を調べるか?にまとめています。
除却
老朽化した空き棟を解体し、将来の修繕・更新費をなくします。考え方は少子化を前提にした校舎のダウンサイジングはどう進めるか?を参照してください。
学校法人ならではの注意点は何か?
4つあります。
収益事業の課税
学校法人は公益法人等として、政令で定める34業種を継続して営む場合に、その所得に法人税が課されます。駐車場業、席貸業、不動産貸付業、旅館業などが関係します。詳しくは学校法人の収益事業にはどう法人税がかかるか?を参照してください。
固定資産税の非課税
学校法人がその設置する学校で直接保育または教育の用に供する不動産は、固定資産税と都市計画税が非課税です。外部に貸したり、教育に使わなくなったりすると、非課税が外れる可能性があります。税制全体は学校法人の税制優遇はどこまで及ぶか?にまとめています。
補助金の財産処分
国や地方公共団体の補助金を受けて整備した施設を、補助目的以外に使う、貸す、売る場合は、財産処分の承認が必要になり、補助金の返還を求められることがあります。
私立学校法上の手続き
収益を目的とする事業を継続して行う場合は、寄附行為に事業の種類を定め、所轄庁の認可を受ける必要があります。基本財産の処分や重要な資産の処分には、理事会などの機関の手続きも必要です。
どう判断を進めるか?
2つの軸で整理すると、選択肢が絞れます。
将来の再利用の可能性
在籍者の回復、新しい学部・学科の設置、キャンパスの再編などで、その資産を再び教育に使う可能性があるかどうかです。可能性があるなら、内部転用、時間貸し、定期借家・定期借地での賃貸が候補になります。可能性がなければ、売却や除却も含めて検討します。
手元に残る金額
収入から、追加の費用、税負担、補助金の返還を差し引いた金額で比べます。賃貸の場合は、賃料から維持管理費、固定資産税、法人税を差し引きます。売却の場合は、売却額から解体費、補助金の返還額を差し引きます。
| 再利用の可能性 | 手元に残る金額が大きい | 手元に残る金額が小さい |
|---|---|---|
| ある | 定期借家・定期借地での賃貸 | 内部転用、時間貸し |
| ない | 売却 | 除却 |
始める順番
最初に取り組みやすいのは、内部転用と時間貸しです。手続きや税の論点が比較的小さく、試しながら進められます。長期賃貸や売却は、所轄庁、税理士、不動産鑑定士などの専門家に相談しながら、時間をかけて進めます。
よくある質問
Q. 遊休資産を持っていることは、経営上問題になりますか。
A. 維持費と将来の更新費がかかり続けるため、収支を圧迫します。また、使っていない不動産は固定資産税の非課税が外れる可能性もあります。早めに方針を決めることが大切です。
Q. どの資産から手をつければよいですか。
A. 維持費が大きく、使用率が低く、今後の修繕・更新費が近く発生する資産から優先します。棚卸しの一覧に、この3つの数字を並べると優先順位が見えます。
Q. 地域の団体から無償で使わせてほしいと頼まれました。
A. 地域との関係づくりとして有効な場合もあります。ただし、無償でも教育に使っていない以上、固定資産税の扱いが変わる可能性があり、事故の責任分担も必要です。条件を書面で決めておきます。
Q. 空き教室を系列の幼稚園や別の学校に使わせることはできますか。
A. 同じ学校法人が設置する別の学校の教育に使う場合は、内部転用に近い扱いになります。別の法人に使わせる場合は賃貸に当たり、税や所轄庁の手続きを確認する必要があります。いずれも、設置基準の面積や施設の兼用の扱いを所轄庁に確認してください。
Q. 遊休資産の活用を外部に相談できますか。
A. 施設の状態の調査、活用の企画、不動産の評価、税務の整理は、それぞれの専門家に依頼できます。最終的な判断は法人内で行います。
まとめ
少子化で、私立高校の7割、私立大学の5割が定員割れの時代に、学校法人の遊休資産は避けられない課題です。放置すれば維持費と劣化が積み上がるため、まず全資産を棚卸しし、使用率、状態、費用、制約を一覧にすることが出発点です。
選択肢は、内部転用、時間貸し、長期賃貸、売却、除却の5つです。学校法人の場合、収益事業の課税、固定資産税の非課税、補助金の財産処分、私立学校法上の手続きの4点に注意が必要です。
将来の再利用の可能性と、手元に残る金額の2つの軸で整理し、取り組みやすい内部転用と時間貸しから始めて、長期賃貸や売却は専門家と時間をかけて進める。この順番で進めると、判断を誤りにくくなります。
参考・出典
- 日本私立学校振興・共済事業団「令和7(2025)年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向」 https://www.shigaku.go.jp/files/shigan_doukouR7.pdf
- 日本私立学校振興・共済事業団「私学経営情報」(令和7年度 私立高等学校入学志願動向) https://www.shigaku.go.jp/files/geppou338.pdf
- 文部科学省「監事が知っておきたい 学校法人の税務」(平成29年10月13日 監事研修会資料) https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/10/18/1397326_4.pdf
- 私立学校法、法人税法、地方税法、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律
記載の制度・データは公表時点のものです。最新の内容は各機関の公表資料でご確認ください。
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